トマトに含まれる色素リコピン(リコペン)の正式名称をつけてみる

リコピンとは

トマトに含まれる強力な抗酸化物質にリコピンというものが知られています。最近ではリコペンとも呼ばれます。二重結合が酸化されるので相手を還元します。抗酸化物質は自分が犠牲的に酸化されるかわりに相手を還元するので還元剤です。

リコピン分子は共役系(C=C二重結合と単結合が1個ずつ交互になっている部分)が長く、ちょうど人間の目には赤色に見える長さをしています。これは青緑の可視光の波長を吸収する共役系の長さであることを意味しています。なので、青緑色の補色である赤色の光が反射されて人間の目には赤色に見えます。だからリコピンを含むトマトは赤いわけです。

リコピン

リコピンの体系名(IUPAC名)

リコピン(リコペン)は慣用名ですが、体系名、いわゆるIUPAC名は(6E,​8E,​10E,​12E,​14E,​16E,​18E,​20E,​22E,​24E,​26E)-​2,​6,​10,​14,​19,​23,​27,​31-​オクタメチルドトリアコンタ-​2,​6,​8,​10,​12,​14,​16,​18,​20,​22,​24,​26,​30-​トリデカエンです。これを最初から組み立ててみましょう。

まず、主鎖の炭素数を調べます。

リコピン主鎖

炭素が32個あることがわかります。よって、相当する飽和炭化水素であるドトリアコンタン(dotriacontane, C32H66)をもとに命名することになります。

この骨格にメチル基が8個付いています。よって、下記の化合物はoctamethyldotriacontaneとなります。しかし、これだけではメチル基がどこに付いているかわかりません。そこで、位置番号で指定します。8ヶ所全部指定します。

置換基の付いたリコピン

この化合物の場合は左から数えても右から数えても同じです。そこで左から数えることにします。左端の炭素が棒の末端にあります。そこから数えて2番目の炭素、6番目の炭素、10番目の炭素、14番目の炭素、​19番目の炭素、23番目の炭素、27番目の炭素、31番目の炭素となります。そこで、2,​6,​10,​14,​19,​23,​27,​31-​octamethyldotriacontaneとなります。

示性式で書くと、CH3CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)CH3

となります。末端のメチル基2つをまとめて表記すると、

(CH3)2CHCH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)2

となります。

次に、たくさんの二重結合があることがわかるように命名します。

リコピンの骨格に二重結合を入れたもの

C=C二重結合を数えてみると13個あります。13個を表わす接頭辞はtridecaです。C=C二重結合を表わす接尾辞はeneなので、13個のC=C二重結合ということでtridecaeneとします。これを先の名称2,​6,​10,​14,​19,​23,​27,​31-​octamethyldotriacontaneと組み合わせます。tridecaeneを付ける時に先頭にaを付けてatridecaeneとしてから2,​6,​10,​14,​19,​23,​27,​31-​octamethyldotriacontaneの最後のaneは外して付けます。すると、2,​6,​10,​14,​19,​23,​27,​31-​octamethyldotriacontatridecaeneとなります。

そして、C=C二重結合の位置を指定します。2つの炭素のうち、最初の炭素の番号だけ記述します。そうすると、左端から数えて2番目、6番目、8番目、10番目、12番目、14番目、16番目、18番目、20番目、22番目、24番目、26番目、30番目の炭素となります。全部で13ヶ所にC=C二重結合があります。よって、先の名称にこれらの位置番号を組み込むと、2,​6,​10,​14,​19,​23,​27,​31-​octamethyldotriaconta-​2,​6,​8,​10,​12,​14,​16,​18,​20,​22,​24,​26,​30-​tridecaeneとなります。

ひとまずこれで完成と言ってもいいと思います。示性式で表わすと、

CH3C(CH3)=CHCH2CH2C(CH3)=CHCH=CHCH(CH3)C=CHCH=C(CH3)=CHCH=CHCH=C(CH3)CH=CHCH=C(CH3)CH=CHCH=C(CH3)CH2CH2CH=C(CH3)CH3

となるからです。

末端のメチル基をまとめて表記すると

(CH3)2C=CHCH2CH2C(CH3)=CHCH=CHCH(CH3)C=CHCH=C(CH3)=CHCH=CHCH=C(CH3)CH=CHCH=C(CH3)CH=CHCH=C(CH3)CH2CH2CH=C(CH3)2

となります。

ただし、この示性式には幾何異性の情報は入っていません。そこまで考慮して冒頭の構造式(リコピン)を忠実にIUPAC名に反映させるためには、二重結合のところがシス型かトランス型かを明記する必要があります。

シス形とは、C=C二重結合の同じ側に置換基が付いている形です。トランス型というのはC=C二重結合の中央を中心に点対称になっている形の幾何異性体です。単結合の場合は自由に回転できるので幾何異性体は存在しません。

すると、冒頭の構造式は、すべてトランス型の二重結合になっていることがわかります。ただし、2番と31番の炭素にはメチル基が2つずつ付いているので、シス型でもトランス型でもないので除外して考えます。

トランス型はアルファベットの大文字の(E)で、シス形は(Z)で表わされます。立体的な情報は括弧の中に入れます。二重結合の位置番号と同じ数字を並べて、それぞれにEを付けて表記すると

(6E,​8E,​10E,​12E,​14E,​16E,​18E,​20E,​22E,​24E,​26E)

となります。これを名称の先頭につけると、

(6E,​8E,​10E,​12E,​14E,​16E,​18E,​20E,​22E,​24E,​26E)-​2,​6,​10,​14,​19,​23,​27,​31-​octamethyldotriaconta-​2,​6,​8,​10,​12,​14,​16,​18,​20,​22,​24,​26,​30-​tridecaene

となります。これで完成です。

まとめ

リコピンの正式名称は(6E,​8E,​10E,​12E,​14E,​16E,​18E,​20E,​22E,​24E,​26E)-​2,​6,​10,​14,​19,​23,​27,​31-​octamethyldotriaconta-​2,​6,​8,​10,​12,​14,​16,​18,​20,​22,​24,​26,​30-​tridecaeneです。

この名称に構造式が正確に組み立てられるような情報が全部入っています。和名はカタカナに直して(6E,​8E,​10E,​12E,​14E,​16E,​18E,​20E,​22E,​24E,​26E)-​2,​6,​10,​14,​19,​23,​27,​31-​オクタメチルドトリアコンタ-​2,​6,​8,​10,​12,​14,​16,​18,​20,​22,​24,​26,​30-​トリデカエンとなります。名称は必ず英語で組み立てていきます。カタカナで組み立てて英語に直すことはできないことはないかもしれませんが、おそらく正しい綴りにならない可能性が高いと思います。よく間違うポイントとしては、aやeが抜けていたり、要らないのに付けていたりすることが挙げられます。だから、英語の綴りでルールに則って考えていき、最後にカタカナに直して和名にします。特に和名にする必要がないなら英語名のままで使うのがいろいろな意味でベストです。






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