強いレモンの香りをもつシトラールの構造と性質

シトラールとは

幾何異性体の関係にあるゲラニアール (geranial) とネラール (neral)を合わせてシトラール (citral) といいます。ゲラニアールがE体で、レモンの香りがします。ネラールがZ体で、レモンの香りはあまりしませんが、甘い味がします。いずれもレモンやオレンジに含まれるモノテルペンアルデヒドの一種です。強いレモンの香りをもつので、別名をレモナール (lemonal)ともいいます。

シトラール (citral) = ゲラニアール (geranial) + ネラール (neral)

ゲラニアール (geranial)
ゲラニアール

ネラール (neral)
ネラール

E体とZ体の区別は下記の青い線の部分でできます。

E体(trans体)がゲラニアール
E体がゲラニアール

Z体(cis体)がネラール
Z体がネラール

シトラールのIUPAC名

IUPAC命名法では3,7-dimethyl-2,6-octadienal(和名:3,7-ジメチル-2,6-オクタジエナール)と表されます。アルデヒド基 (-CHO)を持つので、アルデヒドとして命名する場合、3,7-dimethyl-2,6-octadieneの語尾のeをとってalに変えます。化合物としてのアルデヒドは相手を還元して、自身は酸化されてカルボン酸になります。アルデヒド基は酸化されてカルボキシル基(-CHO → -COOH)になります。

モノテルペンとは

モノテルペンとは、天然ゴムのモノマー単位であるイソプレン(C5H8)2個が頭尾結合(頭と尻尾で結合した形)でつながった形を有しており、C10H16の分子式を持つものです。非環式のものと環を含むものがあります。

イソプレン(isoprene)は示性式CH2=C(CH3)CH=CH2で表わされます。二重結合を2つ持つ炭化水素で、このようなC=C二重結合を単結合1個を介して2つ有する化合物は共役(きょうやく)ジエンといいます。IUPAC命名法では2-Methyl-1,3-butadiene (2-メチル-1,3-ブタジエン) となります。

イソプレン
イソプレン

左右反転しても同じイソプレンです。
イソプレン

下記の赤い部分がイソプレンです。モノテルペンだから2個あります。

ゲラニアール (geranial)
ゲラニアール

ネラール (neral)
ネラール

赤いイソプレン部分に二重結合が1個しかないから元のモノマーのイソプレンと違うではないかというツッコミが入りそうですが、元のイソプレン(モノマー)の二重結合のうちの1本が半分に割れて、単結合の先にある隣りの二重結合のうちの1本を半分に割ったものと結合して、結合相手の組み替えが起こったと考えれば、元の2つの二重結合の間にあった単結合のところにもう1本結合ができて二重結合になることが理解できると思います。化学結合では1本の線の両末端に1個ずつ電子があり、原子同士がお互い1個ずつ電子をshareして電子対、すなわち共有結合を形成しています。1本の結合は電子対(2個の電子)からなっています。だから、先に説明したように、元の二重結合が半分に割れてできた1個の電子が隣りの二重結合から電子1個を供給してもらうことができれば、両者の中間の位置に新しい二重結合ができます。よって、モノマーのイソプレンと、モノテルペンの中のイソプレン残基(赤の部分)の二重結合の数と位置が異なっている理由は、共有電子対の組み替えが起こったからです。

(C10H16)nにおいて、n=1の時はモノテルペン、n=2の時はジテルペン、n=3の時はトリテルペン、n=4の時はテトラテルペンといいます。この時、イソプレン単位の数は、n=1の時は2個、n=2の時は4個、n=3の時は6個、n=4の時は8個となります。それではイソプレン単位が3個の時はどうなるのでしょう。n=1.5の場合に相当しますが、この場合はモノとジの間になり、セスキといいます。セスキテルペンという言葉が時々出て来ることがあります。






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